mathdiaryのブログ

数学についての覚え書きを雑多にしていきます.

点P

群の簡約メモ

$G$ を半群とする(結合法則をみたす演算を備える). $\forall a , b \in G , \exists! l \in G ~~ \mathrm{s.t.} ~~ la = b$ および $\forall a , b \in G , \exists! r \in G ~~ \mathrm{s.t.} ~~ ar = b$ を満たしているとする. これを除法が一意的に可能と呼ぶことにする. このとき $G$ は群となる.

 

元 $a \in G$ を右から掛ける演算を $r_a : G \rightarrow G$ と表し, 左から掛ける演算を $l_a : G \rightarrow G$ と表す. まず単位元が存在することを示す. 除法に関する仮定より $\exists! e \in G ~~ \mathrm{s.t.} ~~ r_e(a) = a$ となる. この $e$ が右単位元となることを示す. $b \in G$ を任意にとれば, $\exists! c \in G ~~\mathrm{s.t.} ~~ l_c(a) = b$ である. すると $r_e(b) = r_e \circ l_c(a)$. ここで結合法則のおかげで $r_e \circ l_c = l_c \circ r_e$ であるから, $r_e(b) = l_c \circ r_e(a) = l_c(a) = b$. $b$ は任意であったので $e$ は $G$ の右単位元. 同様にして左単位元も作ることができるが, 結合法則が成り立っている場合は一般に右単位元と左単位元は一致するから, 結局 $e$ は $G$ の単位元.

次に逆元が存在することを見る. 除法に関する仮定により, $\exists! i \in G ~~ \mathrm{s.t.} ~~ ai = e$ であり, $\exists! j \in G ~~ \mathrm{s.t.} ~~ ja = e$ である. すると $i = ei = (ja)i = j(ai) = je = j$ であるから $i=j$ は $a$ の逆元となる.

作用素ノルムのメモ

$V$, $W$ はある体 $K$ ( $K = \mathbb{R}$ or $\mathbb{C}$ ) 上のノルム空間とし, $A : V \rightarrow W$ は可逆な有界線形作用素であるとする. このとき $A$ の作用素ノルム $||A||$ が定められる. いま, ある正の実数 $a > 0$ について $||A|| < a$ であったとする. このとき以下が成り立つ.

  1. $||A^{-1}|| > a^{-1}$
  2. $\forall x \in V : ||A^{-1}x|| > a^{-1}||x||$

2. が示されれば 1. も示されるが(というよりほぼ同じだが), それぞれ独立に示してみる.

証明

1.
  $1=||I||=||A A^{-1}|| \leq ||A|| ~ ||A^{-1}|| < a||A^{-1}||$

2.
  $||x||=||A A^{-1} x|| \leq ||A|| ~ ||A^{-1} x|| < a||A^{-1}x||$

 

2. の方が強い主張である.

2つの原点をもつ直線

$\mathbb{R}^2$ の部分集合 $V$ を $V:=(\mathbb{R} \times \{1\}) \cup (\mathbb{R} \times \{0\})$ (非交叉和)として定める. $\mathbb{R}^2$ に関する相対位相を与えることで $V$ を部分位相空間とみなす. $V$ 上の二項関係 $\sim$ を $(a, i), (b, j) \in V$ について,

$(a, i) \sim (b, j) \Leftrightarrow (a, b \neq 0$ かつ $a=b)$ または $(a, i) = (b, j)$

として定める. すると $\sim$ は $V$ 上の同値関係となる. この同値関係は $x \neq 0$ のとき $(x, 0)$ と $(x, 1)$ を同一視することに相当する.

この準備の上で $M := V / \sim$ と定める. $(x, i)$ の同値類を $[(x, i)]$ で表すことにし, $ M $ には $ V $ の商位相を入れるものとする. 写像 $ \pi : V \rightarrow M $ を自然な射影とする. この $ M $ を「2つの原点をもつ直線(the line with two origins)」と呼ぶ. 以下, $ M $ の性質を見ていく.

 

1. $ M $ はHausdorff空間ではない.

$[(0, 0)]$ の近傍 $U_0$ と $[(0, 1)]$ の近傍 $U_1$ を任意にとる. 商位相の定義より $\pi^{-1}(U_0)$ , $\pi^{-1}(U_1)$ はそれぞれ $(0, 0)$ , $(0, 1)$ の近傍となる. よって $0$ に十分近い $x \neq 0$ をとれば, $(x, 0) \in \pi^{-1}(U_0)$ かつ $(x, 1) \in \pi^{-1}(U_1)$ とできる. $x \neq 0$ のとき $[(x, 0)] = [(x, 1)]$ であることを合わせて考えれば, $[(x, 0)] \in U_0 \cap U_1$ となるので $U_0 \cap U_1 \neq \emptyset$ . よってHausdorff空間ではない.

2. $ M $ は $ 1 $ 次元の $C^\omega$ 級多様体になる.

ひとつのアトラスを具体的に与える. $ U_0 := \pi (\left( \mathbb{R} , 0 \right) ) $ , $ U_1 := \pi (\left( \mathbb{R} , 1 \right) ) $ と定める. このとき $ \pi^{-1} (U_0) = V - \{(x, 1)\} $ かつ $ \pi^{-1} (U_1) = V - \{(x, 0)\} $ となることは明らかであるから, $U_0$ , $U_1$ は $ M $ の開集合.

写像 $\varphi : M \rightarrow \mathbb{R}$ を $\varphi([(x, i)]) = x$ と定める. 同値類 $[(x, i)]$ という $V$ の部分集合は, $x = 0$ のとき $\{(0, i)\}$ , $x \neq 0$ のとき $\{ (x, 0) , (x, 1) \}$ となるので, 代表元の取り方に依らずに $\varphi([(x, i)])$ はただ一つに定まる. よって $\varphi$ はwell-definedとなる.

$\{ (U_0 , \varphi |_{U_0}) , (U_1 , \varphi |_{U_1}) \}$ が $ M $ 上のアトラスになることを示す. $ U_0 \cup U_1 = M $ となること, 及び座標変換が恒等写像になることは明らか. $\varphi |_{U_i}$ が $\mathbb{R}$ のある開集合上への同相写像となることを示す. $U_0$ の場合に示せば十分.

$\psi : \mathbb{R} \rightarrow U_0$ を $\psi(x) = [(x, 0)]$ と定める. これが $\varphi |_{U_0}$ の連続な逆写像となってることは明らかである. ゆえに $\varphi |_{U_0}$ は同相写像となる.

 

この $ M $ は, 局所ユークリッドであるがHausdorffでない例となっている.