mathdiaryのブログ

数学についての覚え書きを雑多にしていきます.

点P

2つの原点をもつ直線

$\mathbb{R}^2$ の部分集合 $V$ を $V:=(\mathbb{R} \times \{1\}) \cup (\mathbb{R} \times \{0\})$ (非交叉和)として定める. $\mathbb{R}^2$ に関する相対位相を与えることで $V$ を部分位相空間とみなす. $V$ 上の二項関係 $\sim$ を $(a, i), (b, j) \in V$ について,

$(a, i) \sim (b, j) \Leftrightarrow (a, b \neq 0$ かつ $a=b)$ または $(a, i) = (b, j)$

として定める. すると $\sim$ は $V$ 上の同値関係となる. この同値関係は $x \neq 0$ のとき $(x, 0)$ と $(x, 1)$ を同一視することに相当する.

この準備の上で $M := V / \sim$ と定める. $(x, i)$ の同値類を $[(x, i)]$ で表すことにし, $ M $ には $ V $ の商位相を入れるものとする. 写像 $ \pi : V \rightarrow M $ を自然な射影とする. この $ M $ を「2つの原点をもつ直線(the line with two origins)」と呼ぶ. 以下, $ M $ の性質を見ていく.

 

1. $ M $ はHausdorff空間ではない.

$[(0, 0)]$ の近傍 $U_0$ と $[(0, 1)]$ の近傍 $U_1$ を任意にとる. 商位相の定義より $\pi^{-1}(U_0)$ , $\pi^{-1}(U_1)$ はそれぞれ $(0, 0)$ , $(0, 1)$ の近傍となる. よって $0$ に十分近い $x \neq 0$ をとれば, $(x, 0) \in \pi^{-1}(U_0)$ かつ $(x, 1) \in \pi^{-1}(U_1)$ とできる. $x \neq 0$ のとき $[(x, 0)] = [(x, 1)]$ であることを合わせて考えれば, $[(x, 0)] \in U_0 \cap U_1$ となるので $U_0 \cap U_1 \neq \emptyset$ . よってHausdorff空間ではない.

2. $ M $ は $ 1 $ 次元の $C^\omega$ 級多様体になる.

ひとつのアトラスを具体的に与える. $ U_0 := \pi (\left( \mathbb{R} , 0 \right) ) $ , $ U_1 := \pi (\left( \mathbb{R} , 1 \right) ) $ と定める. このとき $ \pi^{-1} (U_0) = V - \{(x, 1)\} $ かつ $ \pi^{-1} (U_1) = V - \{(x, 0)\} $ となることは明らかであるから, $U_0$ , $U_1$ は $ M $ の開集合.

写像 $\varphi : M \rightarrow \mathbb{R}$ を $\varphi([(x, i)]) = x$ と定める. 同値類 $[(x, i)]$ という $V$ の部分集合は, $x = 0$ のとき $\{(0, i)\}$ , $x \neq 0$ のとき $\{ (x, 0) , (x, 1) \}$ となるので, 代表元の取り方に依らずに $\varphi([(x, i)])$ はただ一つに定まる. よって $\varphi$ はwell-definedとなる.

$\{ (U_0 , \varphi |_{U_0}) , (U_1 , \varphi |_{U_1}) \}$ が $ M $ 上のアトラスになることを示す. $ U_0 \cup U_1 = M $ となること, 及び座標変換が恒等写像になることは明らか. $\varphi |_{U_i}$ が $\mathbb{R}$ のある開集合上への同相写像となることを示す. $U_0$ の場合に示せば十分.

$\psi : \mathbb{R} \rightarrow U_0$ を $\psi(x) = [(x, 0)]$ と定める. これが $\varphi |_{U_0}$ の連続な逆写像となってることは明らかである. ゆえに $\varphi |_{U_0}$ は同相写像となる.

 

この $ M $ は, 局所ユークリッドであるがHausdorffでない例となっている.