mathdiaryのブログ

数学についての覚え書きを雑多にしていきます.

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2012年東京大学入学試験 化学:大問1のIIについて

数学のブログだが、化学についてのメモ。

今日、東京大学の2012年の化学の入試問題を解説する機会があった。問題自体は予備校のサイトなどを参照してもらいたいが、要は化学平衡の問題だった。

問題設定では物質PS-Xが会合を起こし、二量体の(PS-X)2になるというものであった。反応の平衡定数Kも与えられていた。

また、物質PS-Xをトルエン溶媒に溶かしたときの浸透圧がどうなるかについての実験のデータも記述されていた。

小問3において、平衡に達したときの(PS-X)2の物質量の割合は、会合前の1molの物質PS-Xに対してどれくらいかと問われた。自分が納得いかないのは、この問題文の書き方である。よく勉強している人、または東大を目指して自学している人には馬鹿馬鹿しく思われるかもしれないが、とりあえず書く。

上記の実験において」という記述は、小問3の問題文にはなかった。それゆえ、一般の場合として割合を調べようとした。てっきり答えとなる割合が物質PS-Xの初濃度に依存するとは思っていなかったので適当な値(1mol/Lや1.0 x 10^(-5)mol/L)で計算を初めたが、答えが食い違う。

そこで初濃度をCなどとおくと、(PS-X)2の割合がCに依存することが分かった(平衡定数Kの式の分母が濃度の二乗で、分子が一乗なのだから、当然ではあるが)。しかし「上記の実験において」という記述は小問3の問題文にはなかったために、一般の場合だと思い込んでいたので少し悩んだ。そこで解答を見ると、実験の状況設定においての数値計算がなされていた。

半分愚痴ではあると思うが、もう少し言葉が欲しかった。「この実験を踏まえたうえで以下の問いに答えよ」などの一言が欲しかった。もちろん、小問3で実験のデータを使わなかったら、大問の最後まで実験のデータを使わずに終わってしまう状況だったので、そこから判断すれば小問3は実験の状況下で計算するのであろうことは察せられるが、やや不親切ではないかと感じた次第である。終わり。

正則かつHausdorffだが正規ではない位相空間 - Sorgenfrey plane

集合族 $\{ ~ [ a, b ) ~|~ a, b \in \mathbb R ~ \}$ を開基として持つ $\mathbb R$ 上の位相を下限位相という. この位相を備えた $\mathbb R$ をSorgenfrey lineともいう. 以下この空間を $\mathbb S$ で表すことにする.

 

【命題】
Sorgenfrey空間 $\mathbb S$ は正規かつHausdorff空間である. したがって特に正則空間である.
(証明)

 下限位相は $\mathbb R$ の通常の位相よりも強いので, Hausdorff空間であることは明らかである. よって正規空間であることを示せばよい.

(※ Hausdorff空間となるためには任意の二点が開集合で分離されなければならない. ところが”二点の選び方”は位相とは全く無関係のものである. つまり, 例えば位相 $\mathcal O_1$ での二点 $x, y$ と, 位相 $\mathcal O_2$ での二点 $x, y$ というのは, 対象として何の違いも無い. 対象は同じままで周りの状況=位相のみが変わっている. したがってHausdorffであるかどうかは, この場合は位相によってのみ判断されるのであるから, 弱い位相で成り立つなら強い位相でも成り立つ. ところが後に出てくる $\mathbb S \times \mathbb S$ が正規かどうかという文脈においては, 対象として選ぶ閉集合自体が位相に依存しているものなので, 単に位相が強いからといって成り立つとは限らない. すなわち, 位相が強くなるのに伴って選ぶべき対象である閉集合も増えるので, Hausdorffのときのような単純な比較ができないのである)

正規空間であることを示す. $F$, $G$ は $\mathbb S$ の閉集合で, $F \cap G = \varnothing$ を満たすものとする. どちらかが空であれば, これらが $\mathbb S$ の開集合によって分離されることは明らかなので, どちらも空でないとしてよい. それゆえ, どちらかが全体集合 $\mathbb R$ に一致することもない. $G$ の補集合は開集合なので, ある添字集合 $\Lambda$ があって,

$\displaystyle G^{~c}=\bigcup_{\lambda \in \Lambda} [a_\lambda , b_\lambda) ~~~ (a_\lambda , b_\lambda \in \mathbb R)$

と表せる. 上の注意により $G^{~c} \neq \varnothing$ なので, 添字集合 $\Lambda$ は空でない(別にこれがなくても証明は正しいのであるが, 怪しいところがないことを明確にするための保険として一応書いておいた).

$x \in F$ とする. すると $x \in G^{~c} = \bigcup ~ [a_\lambda , b_\lambda)$ なので, ある $\lambda \in \Lambda$ が存在して $x \in [a_\lambda , b_\lambda)$ となる. 特に $[x , b_\lambda) \subset G^{~c}$ である. したがって $\forall x \in F , \exists \epsilon_x > x ~~ \mathrm{s.t.} ~~ [x, \epsilon_x) \subset G^{~c}$ が言えた. そこで

$\displaystyle U := \bigcup_{x \in F} [x, \epsilon_x)$

と定めればこれは $\mathbb S$ の開集合で, $F \subset U \subset G^{~c}$ を満たす. これとまったく同様の議論を $F$, $G$ を入れ替えて行うことで, $\forall y \in G , \exists \delta_y > y ~~ \mathrm{s.t.} ~~ [y, \delta_y) \subset F^{~c}$ が言える. これを用いて

$\displaystyle V := \bigcup_{y \in G} [y, \delta_y)$

と定めればこれは $\mathbb S$ の開集合で, $G \subset V \subset F^{~c}$ を満たす. 最後に $U \cap V = \varnothing$ を示す. 背理法による. $\exists x \in F , \exists y \in G ~~ \mathrm{s.t.} ~~ [x, \epsilon_x) \cap [y , \delta_y) \neq \varnothing$ であるとする. するとある $z \in \mathbb R$ で $x \leq z < \epsilon_x$ かつ $y \leq z < \delta_y$ を満たすものが存在する. よって $x < \delta_y$ かつ $y < \epsilon_x$ である.

$(\mathrm{i}) ~ x \leq y$ のとき
$x \leq y < \epsilon_x$ となり, これは $y \in [x, \epsilon_x)$ を意味する. $y \in G$ であったので $[x, \epsilon_x) \subset G^{~c}$ に矛盾.
$(\mathrm{ii}) ~ y \leq x$ のとき
$y \leq x < \delta_y$ となり, これは $x \in [y, \delta_y)$ を意味する. $x \in F$ であったので $[y, \delta_y) \subset F^{~c}$ に矛盾.

以上よりいずれの場合も矛盾が導かれた. よって $\forall x \in F , \forall y \in G : [x, \epsilon_x) \cap [y , \delta_y) = \varnothing$ である. これはすなわち $U \cap V = \varnothing$ を示している. ゆえに $F$ と $G$ は開集合で分離された. よって $\mathbb S$ は正規空間である.

一般論として正規かつHausdorffならば正則なので, 命題は示された.(証明終)

【命題】
$\mathbb S^2 := \mathbb S \times \mathbb S$ は正則なHausdorff空間(さらに完備)であるが正規空間ではない.
(証明)

Hausdorff空間同士からなる積空間がHausdorff空間となることは明らか. 一般に正則空間の任意個の積空間もまた正則空間になる(例えば理系インデックス - 分離公理(正規空間、正則空間、ハウスドルフ空間)を参照). よって正規空間でないことだけ示せばよい.

$\Delta := \{ (x, -x) ~|~ x \in \mathbb R \} \subset \mathbb R^2$ とおき, $K := \{ (x, -x) ~|~ x \in \mathbb Q \}$ とおく. $\Delta^{~c}$ は通常の位相において開集合である. $\mathbb S^2$ は通常の位相よりも強い位相をもつので, $\mathbb S^2$ においても $\Delta^{~c}$ は開集合. よって $\Delta$ は $\mathbb S^2$ の閉集合. これを$\mathbb S^2$ の部分空間と思えば, 離散位相を持つことが分かる. よって $K$ および $\Delta \setminus K$ はともに $\Delta$ の位相において閉集合となる. ところが $\Delta$ は $\mathbb S^2$ の閉集合だったので, $K$ および $\Delta \setminus K$ は $\mathbb S^2$ の閉集合である. それは以下の補題で分かる.

補題
$(X, \mathcal O)$ を位相空間とし, $A \subset X$ は$\mathcal O$-閉集合であるとする. $A$ に相対位相 $\mathcal O_A$ を与えることで $X$ の部分空間とみなすとき, $F \subset A$ が $\mathcal O_A$-閉集合であれば, これは $\mathcal O$-閉集合でもある.
(証明)
$A \setminus F$ は $\mathcal O_A$-開集合となるから, 相対位相の定義よりある $\mathcal O$-開集合 $U$ によって $A \setminus F=U \cap A$ と表せる. 一方で $X \setminus F = (X \setminus A) \cup (A \setminus F) = A^{~c} \cup (U \cap A)=A^{~c} \cup (U \cap A^{~c}) \cup (U \cap A) = A^{~c} \cup U$ となるのでこれは $\mathcal O$-開集合. よって示された.(証明終)

ところが上の二つの集合は $\mathbb S^2$ の開集合で分離されないことが分かる. このことを背理法で示す. いま, $\mathbb S^2$ のある開集合 $\mathscr A$, $\mathscr B$ によって上の二つの集合が分離されたとする($K \subset \mathscr A$, $\Delta \setminus K \subset \mathscr B$). $[a, b) \times [c, d)$ なる形の元全体は $\mathbb S^2$ の開基を成すので,

$\displaystyle \mathscr A = \bigcup_{\lambda \in \Lambda} [a^1_\lambda, a^2_\lambda) \times [a^3_\lambda, a^4_\lambda)$
$\displaystyle \mathscr B = \bigcup_{\mu \in M} [b^1_\mu, b^2_\mu) \times [b^3_\mu, b^4_\mu)$

と表される. ここで $\Lambda$, $ M $ は添字集合. ちなみに上付きの数字はべき乗を表すわけではなく, 単に添え字を表すものである.

$(q, -q) \in K$ とする. このときある $\nu \in \Lambda$ について $(q, -q) \in [a^1_\nu, a^2_\nu) \times [a^3_\nu, a^4_\nu)$ となる. もしも $a^1_\nu < q < a^2_\nu$ であったとすると, $0 < \forall \epsilon < \mathrm{min} \{ q-a^1_\nu, a^4_\nu-(-q) \} $ について $(q-\epsilon, -q+\epsilon) \in [a^1_\nu, a^2_\nu) \times [a^3_\nu, a^4_\nu)$ となってしまう. 実際, $0 < \epsilon < q-a^1_\nu$ より, $a^2_\nu \geq q > q-\epsilon > q - (q- a^1_\nu) = a^1_\nu$ となるので, $q-\epsilon \in [a^1_\nu, a^2_\nu)$ である. 一方で $\epsilon < a^4_\nu+q$ より $a^3_\nu \leq -q < -q+\epsilon < a^4_\nu$ , すなわち $-q+\epsilon \in [a^3_\nu, a^4_\nu)$ である.

ところが, これは不合理である. なぜなら無理数の(通常の位相における)稠密性により, 上の $\epsilon$ をうまくとれば( $q$ は有理数であるのだが) $q-\epsilon$ を無理数であるようにできる. つまり $[a^1_\nu, a^2_\nu) \times [a^3_\nu, a^4_\nu)$ は $\Delta$ の無理点をも含むこととなり, これは $\mathscr A$ と $\mathscr B$ が互いに素であったことに矛盾するからである. これは $a^1_\nu < q < a^2_\nu$ としたことから生じたから, $q = a^1_\nu$ である. 第二成分の $-q$ についてもこれと同様の議論をすることによって $-q = a^3_\nu$ となる. つまり $[a^1_\nu, a^2_\nu) \times [a^3_\nu, a^4_\nu) = [q, a^2_\nu) \times [-q, a^4_\nu)$ であり, 点 $(q, -q)$ の一点のみで $\Delta$ (特に $K$)に接するとわかる.

いまの議論は $K$ の元について行ったが, $\Delta \setminus K$ の元についても同様の結論が得られることは明らかである(実際, 議論の重要な部分は稠密性であり, これは有理数でも無理数でも持つ性質である).

再び $(q, -q) \in \Delta$ とし, $(q, -q) \in [q, a^2_\nu) \times [-q, a^4_\nu)$ とする. このとき, ある $\delta_q > 0$ について $[q, q + \delta_q) \times [-q, -q + \delta_q) \subset [q, a^2_\nu) \times [-q, a^4_\nu)$ とできる. 具体的には $\delta = \mathrm{min} \{ a^2_\nu, a^4_\nu \}$ などと取ればよい. $\delta_q$ は必ず正であるように取れることを覚えていてほしい. 以下, この $\delta_q$ について考察することで矛盾を導く.

$(q, -q) \in K$ とする. 正整数 $n>0$ について $q \in \mathbb R$ の(通常の位相における)近傍を次のようにとる.

ある $r>0$ があって, $q$ の $r$ 近傍に含まれる任意の無理数 $u$ について, 上で定めた $\delta_u$ が $n^{-1}$ 以下となる. 実際, $r = \mathrm{min} \{n^{-1}, \delta_q\}$ とすればこの条件が満たされることを示す. まず $0 < q-u < r$ であるとする. $\delta_u > n^{-1}$ とする. このとき $u < q$ かつ $u + \delta_u > u + n^{-1} \geq u + r > q$ であるから $q \in [u, u+\delta_u)$ . つまり $[u, u+\delta_u) \cap [q, q + \delta_q) \neq \varnothing$ . また $0 < q-u < r$ より $-q < -u < -q + r \leq -q + \delta_q$, すなわち $-u \in [-q, -q+\delta_q)$ . よって $[-u, -u+\delta_u) \cap [-q, -q+\delta_q) \neq \varnothing$. 以上より $[u, u+\delta_u) \times [-u, -u+\delta_u) \cap [q, q+\delta_q) \times [-q, -q+\delta_q) \neq \varnothing$. しかし $\delta_q$, $\delta_u$ の定め方より, これら二つは交わってはいけないので矛盾. よって $\delta_u \leq n^{-1}$ である. 以上より「各有理数 $q$ と各正整数 $n$ について, ある(通常の位相における)開近傍 $V(q, n)$ であって, $V(q, n)$ に含まれる任意の無理数 $u$ について $\delta_u \leq n^{-1}$ となる」ことが示された.

これと同様の議論を $\{ q+\sqrt{2} ~|~ q \in \mathbb{Q} \}$ について行うことで, 「各 $q+\sqrt{2}$ と各正整数 $n$ について, ある(通常の位相における)開近傍 $W(q+\sqrt{2}, n)$ であって, $W(q+\sqrt{2}, n)$ に含まれる任意の有理数 $s$ について $\delta_s \leq n^{-1}$ となる」ことが示される.

さて, $\displaystyle V(n) := \bigcup_{q \in \mathbb Q} V(q, n)$ と定めれば, 有理数の集合が通常の位相に関して $\mathbb R$ で稠密であることから明らかに $V(n)$ は稠密な開集合となる. 同様にして稠密な開集合 $W(n)$ が得られる. そこで $\displaystyle Y := \bigcap_{n \geq 1} (V(n) \cap W(n))$ と定めれば, これは可算個の稠密開集合の共通部分となる. 通常の位相を備えた $\mathbb R$ はBaire空間であるので, $Y$ もまた $\mathbb R$ の通常の位相において稠密な開集合となる. 特に空集合にならないことが重要である. そこで, $Y$ に含まれる実数 $w$ を一つ取ることができる(実際は無数にとれるが一つで十分). さて $\delta_w$ を考えてみる. $w$ が有理数のときは $w \in \bigcap_{n \geq 1} W(n)$ であることに注意すれば, $\forall n > 0, \delta_w < n^{-1}$ となるので, 結局 $\delta_w = 0$ である. $w$ が無理数のときは $w \in \bigcap_{n \geq 1} V(n)$ であることに注意すれば, 同様に $\delta_w =0 $ が得られる. いずれにしろ $\delta_w = 0$ が導かれる.

ところが $K$ と $\Delta \setminus K$ がそれぞれ開集合 $\mathscr A$, $\mathscr B$ で分離できるという仮定から, $\delta_w > 0$ であったはずである. ゆえにこれらは矛盾である. よってそもそも開集合で分離できたという仮定がおかしかったことになる. ゆえに $\mathbb S^2$ は正規空間ではない. (証明終)

群の簡約メモ

$G$ を半群とする(結合法則をみたす演算を備える). $\forall a , b \in G , \exists! l \in G ~~ \mathrm{s.t.} ~~ la = b$ および $\forall a , b \in G , \exists! r \in G ~~ \mathrm{s.t.} ~~ ar = b$ を満たしているとする. これを除法が一意的に可能と呼ぶことにする. このとき $G$ は群となる.

 

元 $a \in G$ を右から掛ける演算を $r_a : G \rightarrow G$ と表し, 左から掛ける演算を $l_a : G \rightarrow G$ と表す. まず単位元が存在することを示す. 除法に関する仮定より $\exists! e \in G ~~ \mathrm{s.t.} ~~ r_e(a) = a$ となる. この $e$ が右単位元となることを示す. $b \in G$ を任意にとれば, $\exists! c \in G ~~\mathrm{s.t.} ~~ l_c(a) = b$ である. すると $r_e(b) = r_e \circ l_c(a)$. ここで結合法則のおかげで $r_e \circ l_c = l_c \circ r_e$ であるから, $r_e(b) = l_c \circ r_e(a) = l_c(a) = b$. $b$ は任意であったので $e$ は $G$ の右単位元. 同様にして左単位元も作ることができるが, 結合法則が成り立っている場合は一般に右単位元と左単位元は一致するから, 結局 $e$ は $G$ の単位元.

次に逆元が存在することを見る. 除法に関する仮定により, $\exists! i \in G ~~ \mathrm{s.t.} ~~ ai = e$ であり, $\exists! j \in G ~~ \mathrm{s.t.} ~~ ja = e$ である. すると $i = ei = (ja)i = j(ai) = je = j$ であるから $i=j$ は $a$ の逆元となる.