mathdiaryのブログ

数学についての覚え書きを雑多にしていきます.

点P

$\epsilon - N$ 論法

$(x_n)_{n \in \mathbb{N}}$ を数列とする. この数列が $a$ に収束"しない"というのはどういう場合であろうか. 以下のような場合については収束しないといっても問題ないであろう.

  1. ずっと $a$ に近づかない場合. 例えば $a$ の周り1cmには近づかない場合など.
  2. $a$ に近づいたり離れたりする場合. 例えば $a$ の周り1cmの範囲をいつまでたっても出たり入ったりを繰り返している場合など.

2.のような列の場合, 列の一部だけを見ると $a$ に収束しているということがありうる. 例えば偶数番目では $\frac 1 n$, 奇数番目では $1$ を取るような数列では, 偶数番目だけを見れば $0$ へと収束していく. ところが奇数番目は $0$ から離れているので, "列としては" $0$ には収束していない.

いま収束しないものとして二つの場合を考えたが, 実はこれらはどちらも同じ言い方で表現することができる. すなわち「ある距離 $\epsilon$ をとると, どんなに大きい番号 $N$ が与えられても, その番号より大きいある番号 $n$ をとれば $x_n$ と $a$ の距離が $\epsilon$ 以上になってしまう」と表現できる. つまりどこまでいっても $a$ に近づいてくれないメンバーがいるということである.

この表現を論理式で表そう.

  • 「ある距離 $\epsilon$ をとると」は「 $\exists \epsilon > 0$ 」と書ける.
  • 「どんなに大きい番号 $N$ が与えられても」は「 $\forall N \in \mathbb{N}$ 」と書ける.
  • 「その番号より大きいある番号 $n$ をとれば」は「 $\exists n \geq N$ 」と書ける.
  • 「$x_n$ と $a$ の距離が $\epsilon$ 以上になってしまう」は「 $|x_n - a| \geq \epsilon$ 」と書くことができる.

以上を合わせることで収束しないことを表す論理式は

$ \exists \epsilon > 0, \forall N \in \mathbb{N}, \exists n \geq N ~~{\rm s.t.}~~ |x_n - a| \geq \epsilon $

となることが分かる. ここで s.t. は such that の略であり, $\exists$ とセットで使うおまけみたいなものなので気にしなくてもよい.

この論理式の否定は

$ \forall \epsilon > 0, \exists N \in \mathbb{N}, \forall n \geq N ~~{\rm s.t.}~~ |x_n - a| < \epsilon $

であり, これが収束することの定義になっている.

加群の定義メモ

加群の定義を当たり前と思わないための戒めとしてメモする.

可換群$ M $が環$ R $上の左加群であるとは左作用$ R \times M \rightarrow M ; (a, x) \mapsto ax $に関して, 

(1) $ \forall a \in R, \forall x, y \in M $について$ a(x+y)=ax+ay $

(2) $ \forall a, b \in R, \forall x \in M $について$ (a+b)x=ax+bx $

(3) $ \forall a, b \in R, \forall x \in M $について$ (ab)x=a(bx) $

(4) $ \forall x \in M $について$ 1x=x $

が成り立つことである(志甫 淳, 「共立講座 数学の魅力5 層とホモロジー代数」, 東京, 共立出版, 2016.1, 7p を参考にしました).

 

時間をおいてから上の定義を見ると直感的に明らかに感じてしまうが, ちゃんと写像を使って書くと次のようになる.

 

$ R $上の和, 積をそれぞれ$ {\rm Sum}_R, {\rm Mul}_R : R \times R \rightarrow R $と表す.

$ M $上の和を$ {\rm Sum}_M : M \times M \rightarrow M $と表す.

$ R $の$ M $への左作用を$ Act : R \times M \rightarrow M $と表す.

 

これらを使うと上の定義はそれぞれ以下のように書き換えられる.

(1)' $ Act(a, {\rm Sum}_{M}(x, y)) = {\rm Sum}_{M}(Act(a, x), Act(a, y)) $

(2)' $ Act({\rm Sum}_{R}(a, b), x) = {\rm Sum}_{M}(Act(a, x), Act(b, x))$

(3)' $ Act({\rm Mul}_{R}(a, b), x) = Act(a, Act(b, x)) $

(4)' $ Act(1, x) = x $

感想は個人によるが, 自分は割と非自明な式だなあと思った.

自分が思っているよりも(1)のような式は非自明なのかもしれない. $ R $からの作用が$ M $での和を飛び越えて作用するということだから.

 

環 $R$ 上の多項式

$R$ を環, とくに整域とする. $R$ 係数多項式とは変数 $x$ と $R$ の元 $r_0, r_1, \cdots, r_n$ たちによって

\[ r_{0}+r_{1}x+r_{2}x^2+\cdots+r_{n}x^n \]

と表される式のことである. ここで$n$は自然数である(この記事では自然数に $0$ を含むものとする).

より正確な定義としては, 有限個の自然数を除いて $0 ( \in R )$ となる写像 $f : \mathbb{N} \rightarrow R$ と変数 $x$ の2つ組$(f, x)$のことである. 普通は変数 $x$ は暗黙の了解があるものとして, 単に多項式 $f$ というように呼ぶことが多い. 多項式 $f$ には次数 ${\rm deg}(f) \in \mathbb{N} \cup \{-\infty\}$ が定まる. 定義は次のとおりである.

\[ {\rm deg}(f):={\rm max}(f^{-1}(R ~ \backslash ~ \{0\})) \]

ただし 零多項式 $f=0$ , すなわち $f^{-1}(R \backslash \{0\})=\emptyset$ であるときは ${\rm deg}(f):=-\infty$ と定めるものとする. $f$ の値が非零となるのは有限個の自然数においてのみなので, 上の定義における $\rm{max}$ は意味を持つ.

次に多項式同士の加法と乗法を定義する. $f, g$ を環 $R$ を係数にとる多項式とし, $n$ は自然数とする.

【加法】 $(f+g)(n)=f(n)+g(n)$

ただし右辺の加法は $R$ 上でのものである.

【乗法】 $\displaystyle (fg)(n)=\sum_{i+j=n \\ i , ~ j \in \mathbb{N}}f(i)g(j)$

ただし右辺の乗法は $R$ 上でのものである.

${\rm deg}$ に関して次の関係が成り立つ.

  1. ${\rm deg}(f + g) \leqq {\rm max}\{ {\rm deg}(f) , {\rm deg}(g) \}$
  2. ${\rm deg}(fg) = {\rm deg}(f) + {\rm deg}(g)$

2. は $R$ を整域であると仮定した故に等号が成り立つ. それを仮定しない場合は $\leqq$ のみが示される. この証明は, このあと多変数多項式についてのより一般の場合について示すことにする.

 

ここまでは一変数の多項式について書いてきたが, 多変数の多項式についても同様の定義ができる.

自然数 $m \geqq 0$ が与えられているとする. $ x_1, x_2, \cdots , x_m $ は文字(変数)とする. ただし $m=0$ のときは変数はないものとし, $\mathbb{N}^0 = \{ 0 \}$ であるとする.

写像 $f : \mathbb{N}^m \rightarrow R$ は $\# f^{-1}(R ~ \backslash ~ \{0\}) < \infty$ なるものとする.

このとき $ x_1, x_2, \cdots , x_m $ を変数とする多項式とは, 組 $(f , ( x_1 , x_2 , \cdots , x_m ))$ のことである. 以下では変数を固定して話を進めるので, 省略して「多項式 $f$ 」のように言及するものとする.

$ \mathbb{N}^m $ 上の加法を成分ごとの和として定める. また $ I = (i_1 , i_2 , \cdots , i_m) \in \mathbb{N}^m $ について

$ \displaystyle |~I~|=\sum_{\nu =1}^m i_\nu $

と定める. このとき多項式の加法と乗法を以下のように定める. $K \in \mathbb{N}^m $ について,

【加法】 $(f+g)(K)=f(K)+g(K)$

ただし右辺の加法は $R$ 上でのものである.

【乗法】 $\displaystyle (fg)(K)=\sum_{I+J=K \\ I, ~ J \in \mathbb{N}^m }f(I)g(J)$

ただし右辺の乗法は $R$ 上でのものである.

 

また ${\rm deg}(f)$ を,

  • $f = 0$ のとき ${\rm deg}(f) = -\infty$
  • $f \neq 0$ のとき ${\rm deg}(f) = {\rm max} \{ ~ |~I~| ~ ; ~ I \in f^{-1}(R ~ \backslash ~ \{ 0 \}) ~ \}$

として定める. このとき ${\rm deg}$ について, 一変数多項式のときとまったく同様の関係式が成り立つ. 以下, それを証明する.

 

加法について, 背理法で示す. ${\rm deg}(f + g) > {\rm max} \{ {\rm deg}(f) , {\rm deg}(g) \}$ であるとする. すると, ある $K \in \mathbb{N}^m $ で $|~K~|>{\rm max} \{ {\rm deg}(f) , {\rm deg}(g) \}$ かつ $(f + g)(K) \neq 0$ となるものが存在する. このとき, $f(K) \neq 0$ または $g(K) \neq 0$ なので, ${\rm deg}(f) > {\rm max} \{ {\rm deg}(f) , {\rm deg}(g) \}$ または ${\rm deg}(g) > {\rm max} \{ {\rm deg}(f) , {\rm deg}(g) \}$ となり, いずれの場合も矛盾である.

次に乗法について示す. $\leqq$ と $\geqq$ をそれぞれ示すことで等しいことを示す. $f=0$ または $g=0$ の場合は自明なので, $f , g \neq 0$ の場合だけを示せばよい.

【 ${\rm deg}(fg) \leqq {\rm deg}(f)+{\rm deg}(g)$ 】

$K \in \mathbb{N}^m $ で $|~K~| > {\rm deg}(f)+{\rm deg}(g)$ なるものを任意にとり, $I , J \in \mathbb{N}^m $ で $I + J = K$ なるものを任意にとる. $|~I~|+|~J~|=|~K~|>{\rm deg}(f)+{\rm deg}(g)$ であることより,

  • $|~I~| \leqq {\rm deg}(f)$ なら $|~J~|>{\rm deg}(g)$ なので $g(J)=0$
  • $|~I~| > {\rm deg}(f)$ なら $f(I) = 0$

以上より, 今の場合の $K$ について $\displaystyle (fg)(K) = \sum_{I+J=K}f(I)g(J)=0$ であることが分かる. よって対偶をとれば $(fg)(K) \neq 0$ となる $K \in \mathbb{N}^m $ は $|~K~| \leqq {\rm deg}(f) + {\rm deg}(g)$ を満たすことになり, 示された.

【 ${\rm deg}(fg) \geqq {\rm deg}(f)+{\rm deg}(g)$ 】

$\mathcal{F} = \{~ I \in f^{-1}(R ~ \backslash ~ \{ 0 \})~ ;~ |~I~| = {\rm deg}(f)~ \}$
$\mathcal{G} = \{~ J \in g^{-1}(R ~ \backslash ~ \{ 0 \})~ ;~ |~J~| = {\rm deg}(g)~ \}$

と定める. 今は $f , g \neq 0$ の場合だけを考えているので, これらの集合は空ではない.

$\mathcal{F}$ の元のうち, 第一成分が最小のもの全体の集合を $\mathcal{F}_1$ とおく. 次に $\mathcal{F}_1$ の元のうち, 第二成分が最小のもの全体の集合を $\mathcal{F}_2$ とおく. これを帰納的に続けていくと, $\mathcal{F}_m $ は明らかにただ一つの元からなる集合となる. その元を $A$ とおく.

同様の手順によって $\mathcal{G}$ から得られた元を $B$ とおく. $(fg)(A+B) \neq 0$ であることを示す.

$I , J \in \mathbb{N}^m $ は $I+J=A+B$ であるとする. 例えば $I$ の第 $k$ 成分を $i_k$ のように小文字と添え字で表すことにする. いま等式の両辺の第一成分について $i_1 + j_1 = a_1 + b_1$ となっている.

  • $i_1 < a_1$ なら, $A$ の最小性より $f(I)=0$
  • $i_1 > a_1$ なら, $j_1 < b_1$ となり, $B$ の最小性より $g(J)=0$

ゆえに $i_1 = a_1 , j_1 =b_1$ のときの値だけを考えればよい. 以下, 同様の考察を第二成分以下についても続けていくと, 結局 $I=A , J=B$ のときだけの値を考えればいいことが分かる. すなわち,

$\displaystyle (fg)(A+B)=\sum_{I+J=A+B}f(I)g(j) = f(A)g(B)$

取り方から $f(A) \neq 0 , g(B) \neq 0$ で, 環 $R$ は整域であったので $(fg)(A+B)=f(A)g(B) \neq 0$

$|~A+B~|=|~A~|+|~B~|={\rm deg}(f)+{\rm deg}(g)$ だったので, ${\rm deg}(fg) \geqq {\rm deg}(f)+{\rm deg}(g)$ . 以上より等号が示された.

 

乗法の $\geqq$ を示すところで出てきた $A , B$ の構成法を使えば, 多項式同士の積の最高次項のうち, 打ち消されないで残る部分の一つを具体的に求められる(使い道があるかは分からないが). 例えば $x^2+xy$ と $y^2 -xy$ を掛けることを考えると, $x^2 \times y^2$ は $xy \times (-xy)$ によって打ち消されてしまう. ここで上の構成法を使えば, $A$ に対応する項は $xy$ , $B$ に対応する項は $y^2$ となり, これらの積 $xy^3$ は, $x^2+xy$ と $y^2 -xy$ の積において打ち消されないで残ることが分かる.