2018年度東京大学理系数学第2問
面白かったので一つの解法を書く.
(1) まず地道に計算することで,
を得る. 分母分子ともに整数となっていることは明らか. 分母と分子が互いに素であることを示す.
$n$ を1つ固定するとき, $a=2n+1$, $b=-8$ とおけば,
となる. よってこれら2数はどの $n$ についても互いに素であることが分かった(共通因数を $d$ などとおいて上の式を書きかえれば $d=1$ しかないと分かる).
(2) 私見だが, (1) でわざわざ分母を $p_n$, 分子を $q_n$ とおいて求めさせたのはヒントではないかと思う. いま,
さて(1)で求めた $q_n$ を見ると, 全て奇数であると分かる. ということは上式の分子は奇数であるから, もしも $p_2$ から $p_n$ のうちどれか1つでも偶数であったらもはや整数にはなりえない. そこで $p_n$ がいつ偶数になるかを調べれば, $p_3=6$ となっていると分かる. よって $n \geqq 3$ では $a_n$ は整数にならないので, あと調べるべきは $n=1, 2$ のみであり, $a_1$, $a_2$ はどちらも整数になっている.(終わり)
初めは $a_n < 1$ になれば整数にはならないだろうと考えて, 大小関係から解こうと試みた. 実際これでも解けるのだが, $a_8$ まで手計算しなければならず, 試験会場では困難である.
写像の空間に誘導される距離
$(X, d)$ を距離空間とし, $S$ を任意の集合とする. また,
と定める. $L_1, \cdots, L_n$ は, $F$ から $F$ への任意の写像とする. このとき $\rho : F \times F \rightarrow \mathbb R$ を, 任意の $f, g \in F$ について
と定めると $\rho$ は $F$ 上の距離関数となる.
- (証明)
-
$\rho \geq 0$ となること, $\rho(f, g) = \rho(g, f)$ となること, そして $f=g$ なら $\rho(f, g)=0$ となることは明らか. 逆に $\rho(f, g)=0$ とする. すると $\rho$ の定義から $\forall s \in S$ について
$0 \leq d(f(s), g(s)) \leq \rho(f, g)=0$ となるので, $d(f(s), g(s))=0$. $d$ は $X$ 上の距離関数なので $f(s)=g(s)$ となり, $s$ は任意であったので $f=g$ が導かれる.
最後に三角不等式を満たすことを示す. $f, g, h \in F$ とする. $d$ は距離関数なので, $\forall s \in S$ について
$d(f(s), h(s)) \leq d(f(s), g(s))+d(g(s), h(s))$ $d(L_j(f)(s), L_j(h)(s)) \leq d(L_j(f)(s), L_j(g)(s))+d(L_j(g)(s), L_j(h)(s)) ~~ (j = 1, \cdots , n)$ が成り立つ. よって
$\rho(f, h) \leq \sup \{ d(f(s), g(s))+d(g(s), h(s)), d(L_j(f)(s), L_j(g)(s))+d(L_j(g)(s), L_j(h)(s)) ~|~ s \in S, j=1, \cdots n \}$
$\leq \rho(f, g)+\rho(g, h)$.
以上より三角不等式が示された. よって $\rho$ は距離関数となる.(証明終)
上では $L_j$ の個数は有限個であったが, 一定の条件を満たしていれば無限個であってもよい. 以下, それについて述べる.
- 命題
- $L_\lambda : F \rightarrow F$ からなる写像族 $\{ L_\lambda \}_{\lambda \in \Lambda}$ は任意の $f, g \in F$ について $\displaystyle \sup \{ d(L_\lambda(f)(s), L_\lambda(g)(s)) ~|~ \lambda \in \Lambda , s\in S \} < \infty$ を満たすとする. このとき $f, g \in F$ について
$\rho(f, g)=\max \{ ~ \sup\{d(f(s), g(s)) ~|~ s \in S\}, ~ \sup\{ d(L_\lambda(f)(s), L_\lambda(g)(s)) ~|~ \lambda \in \Lambda, s \in S\} ~ \}$ と定めればこれは $F$ 上の距離関数になる. ここで加えた条件は, 関数 $\rho$ の値が実数値として決まるように加えたものである.
証明は上と同じである.
2012年東京大学入学試験 化学:大問1のIIについて
数学のブログだが、化学についてのメモ。
今日、東京大学の2012年の化学の入試問題を解説する機会があった。問題自体は予備校のサイトなどを参照してもらいたいが、要は化学平衡の問題だった。
問題設定では物質PS-Xが会合を起こし、二量体の(PS-X)2になるというものであった。反応の平衡定数Kも与えられていた。
また、物質PS-Xをトルエン溶媒に溶かしたときの浸透圧がどうなるかについての実験のデータも記述されていた。
小問3において、平衡に達したときの(PS-X)2の物質量の割合は、会合前の1molの物質PS-Xに対してどれくらいかと問われた。自分が納得いかないのは、この問題文の書き方である。よく勉強している人、または東大を目指して自学している人には馬鹿馬鹿しく思われるかもしれないが、とりあえず書く。
「上記の実験において」という記述は、小問3の問題文にはなかった。それゆえ、一般の場合として割合を調べようとした。てっきり答えとなる割合が物質PS-Xの初濃度に依存するとは思っていなかったので適当な値(1mol/Lや1.0 x 10^(-5)mol/L)で計算を初めたが、答えが食い違う。
そこで初濃度をCなどとおくと、(PS-X)2の割合がCに依存することが分かった(平衡定数Kの式の分母が濃度の二乗で、分子が一乗なのだから、当然ではあるが)。しかし「上記の実験において」という記述は小問3の問題文にはなかったために、一般の場合だと思い込んでいたので少し悩んだ。そこで解答を見ると、実験の状況設定においての数値計算がなされていた。
半分愚痴ではあると思うが、もう少し言葉が欲しかった。「この実験を踏まえたうえで以下の問いに答えよ」などの一言が欲しかった。もちろん、小問3で実験のデータを使わなかったら、大問の最後まで実験のデータを使わずに終わってしまう状況だったので、そこから判断すれば小問3は実験の状況下で計算するのであろうことは察せられるが、やや不親切ではないかと感じた次第である。終わり。