mathdiaryのブログ

数学についての覚え書きを雑多にしていきます.

点P

加群の定義メモ

加群の定義を当たり前と思わないための戒めとしてメモする.

可換群$ M $が環$ R $上の左加群であるとは左作用$ R \times M \rightarrow M ; (a, x) \mapsto ax $に関して, 

(1) $ \forall a \in R, \forall x, y \in M $について$ a(x+y)=ax+ay $

(2) $ \forall a, b \in R, \forall x \in M $について$ (a+b)x=ax+bx $

(3) $ \forall a, b \in R, \forall x \in M $について$ (ab)x=a(bx) $

(4) $ \forall x \in M $について$ 1x=x $

が成り立つことである(志甫 淳, 「共立講座 数学の魅力5 層とホモロジー代数」, 東京, 共立出版, 2016.1, 7p を参考にしました).

 

時間をおいてから上の定義を見ると直感的に明らかに感じてしまうが, ちゃんと写像を使って書くと次のようになる.

 

$ R $上の和, 積をそれぞれ$ {\rm Sum}_R, {\rm Mul}_R : R \times R \rightarrow R $と表す.

$ M $上の和を$ {\rm Sum}_M : M \times M \rightarrow M $と表す.

$ R $の$ M $への左作用を$ Act : R \times M \rightarrow M $と表す.

 

これらを使うと上の定義はそれぞれ以下のように書き換えられる.

(1)' $ Act(a, {\rm Sum}_{M}(x, y)) = {\rm Sum}_{M}(Act(a, x), Act(a, y)) $

(2)' $ Act({\rm Sum}_{R}(a, b), x) = {\rm Sum}_{M}(Act(a, x), Act(b, x))$

(3)' $ Act({\rm Mul}_{R}(a, b), x) = Act(a, Act(b, x)) $

(4)' $ Act(1, x) = x $

感想は個人によるが, 自分は割と非自明な式だなあと思った.

自分が思っているよりも(1)のような式は非自明なのかもしれない. $ R $からの作用が$ M $での和を飛び越えて作用するということだから.

 

環 $R$ 上の多項式

$R$ を環, とくに整域とする. $R$ 係数多項式とは変数 $x$ と $R$ の元 $r_0, r_1, \cdots, r_n$ たちによって

\[ r_{0}+r_{1}x+r_{2}x^2+\cdots+r_{n}x^n \]

と表される式のことである. ここで$n$は自然数である(この記事では自然数に $0$ を含むものとする).

より正確な定義としては, 有限個の自然数を除いて $0 ( \in R )$ となる写像 $f : \mathbb{N} \rightarrow R$ と変数 $x$ の2つ組$(f, x)$のことである. 普通は変数 $x$ は暗黙の了解があるものとして, 単に多項式 $f$ というように呼ぶことが多い. 多項式 $f$ には次数 ${\rm deg}(f) \in \mathbb{N} \cup \{-\infty\}$ が定まる. 定義は次のとおりである.

\[ {\rm deg}(f):={\rm max}(f^{-1}(R ~ \backslash ~ \{0\})) \]

ただし 零多項式 $f=0$ , すなわち $f^{-1}(R \backslash \{0\})=\emptyset$ であるときは ${\rm deg}(f):=-\infty$ と定めるものとする. $f$ の値が非零となるのは有限個の自然数においてのみなので, 上の定義における $\rm{max}$ は意味を持つ.

次に多項式同士の加法と乗法を定義する. $f, g$ を環 $R$ を係数にとる多項式とし, $n$ は自然数とする.

【加法】 $(f+g)(n)=f(n)+g(n)$

ただし右辺の加法は $R$ 上でのものである.

【乗法】 $\displaystyle (fg)(n)=\sum_{i+j=n \\ i , ~ j \in \mathbb{N}}f(i)g(j)$

ただし右辺の乗法は $R$ 上でのものである.

${\rm deg}$ に関して次の関係が成り立つ.

  1. ${\rm deg}(f + g) \leqq {\rm max}\{ {\rm deg}(f) , {\rm deg}(g) \}$
  2. ${\rm deg}(fg) = {\rm deg}(f) + {\rm deg}(g)$

2. は $R$ を整域であると仮定した故に等号が成り立つ. それを仮定しない場合は $\leqq$ のみが示される. この証明は, このあと多変数多項式についてのより一般の場合について示すことにする.

 

ここまでは一変数の多項式について書いてきたが, 多変数の多項式についても同様の定義ができる.

自然数 $m \geqq 0$ が与えられているとする. $ x_1, x_2, \cdots , x_m $ は文字(変数)とする. ただし $m=0$ のときは変数はないものとし, $\mathbb{N}^0 = \{ 0 \}$ であるとする.

写像 $f : \mathbb{N}^m \rightarrow R$ は $\# f^{-1}(R ~ \backslash ~ \{0\}) < \infty$ なるものとする.

このとき $ x_1, x_2, \cdots , x_m $ を変数とする多項式とは, 組 $(f , ( x_1 , x_2 , \cdots , x_m ))$ のことである. 以下では変数を固定して話を進めるので, 省略して「多項式 $f$ 」のように言及するものとする.

$ \mathbb{N}^m $ 上の加法を成分ごとの和として定める. また $ I = (i_1 , i_2 , \cdots , i_m) \in \mathbb{N}^m $ について

$ \displaystyle |~I~|=\sum_{\nu =1}^m i_\nu $

と定める. このとき多項式の加法と乗法を以下のように定める. $K \in \mathbb{N}^m $ について,

【加法】 $(f+g)(K)=f(K)+g(K)$

ただし右辺の加法は $R$ 上でのものである.

【乗法】 $\displaystyle (fg)(K)=\sum_{I+J=K \\ I, ~ J \in \mathbb{N}^m }f(I)g(J)$

ただし右辺の乗法は $R$ 上でのものである.

 

また ${\rm deg}(f)$ を,

  • $f = 0$ のとき ${\rm deg}(f) = -\infty$
  • $f \neq 0$ のとき ${\rm deg}(f) = {\rm max} \{ ~ |~I~| ~ ; ~ I \in f^{-1}(R ~ \backslash ~ \{ 0 \}) ~ \}$

として定める. このとき ${\rm deg}$ について, 一変数多項式のときとまったく同様の関係式が成り立つ. 以下, それを証明する.

 

加法について, 背理法で示す. ${\rm deg}(f + g) > {\rm max} \{ {\rm deg}(f) , {\rm deg}(g) \}$ であるとする. すると, ある $K \in \mathbb{N}^m $ で $|~K~|>{\rm max} \{ {\rm deg}(f) , {\rm deg}(g) \}$ かつ $(f + g)(K) \neq 0$ となるものが存在する. このとき, $f(K) \neq 0$ または $g(K) \neq 0$ なので, ${\rm deg}(f) > {\rm max} \{ {\rm deg}(f) , {\rm deg}(g) \}$ または ${\rm deg}(g) > {\rm max} \{ {\rm deg}(f) , {\rm deg}(g) \}$ となり, いずれの場合も矛盾である.

次に乗法について示す. $\leqq$ と $\geqq$ をそれぞれ示すことで等しいことを示す. $f=0$ または $g=0$ の場合は自明なので, $f , g \neq 0$ の場合だけを示せばよい.

【 ${\rm deg}(fg) \leqq {\rm deg}(f)+{\rm deg}(g)$ 】

$K \in \mathbb{N}^m $ で $|~K~| > {\rm deg}(f)+{\rm deg}(g)$ なるものを任意にとり, $I , J \in \mathbb{N}^m $ で $I + J = K$ なるものを任意にとる. $|~I~|+|~J~|=|~K~|>{\rm deg}(f)+{\rm deg}(g)$ であることより,

  • $|~I~| \leqq {\rm deg}(f)$ なら $|~J~|>{\rm deg}(g)$ なので $g(J)=0$
  • $|~I~| > {\rm deg}(f)$ なら $f(I) = 0$

以上より, 今の場合の $K$ について $\displaystyle (fg)(K) = \sum_{I+J=K}f(I)g(J)=0$ であることが分かる. よって対偶をとれば $(fg)(K) \neq 0$ となる $K \in \mathbb{N}^m $ は $|~K~| \leqq {\rm deg}(f) + {\rm deg}(g)$ を満たすことになり, 示された.

【 ${\rm deg}(fg) \geqq {\rm deg}(f)+{\rm deg}(g)$ 】

$\mathcal{F} = \{~ I \in f^{-1}(R ~ \backslash ~ \{ 0 \})~ ;~ |~I~| = {\rm deg}(f)~ \}$
$\mathcal{G} = \{~ J \in g^{-1}(R ~ \backslash ~ \{ 0 \})~ ;~ |~J~| = {\rm deg}(g)~ \}$

と定める. 今は $f , g \neq 0$ の場合だけを考えているので, これらの集合は空ではない.

$\mathcal{F}$ の元のうち, 第一成分が最小のもの全体の集合を $\mathcal{F}_1$ とおく. 次に $\mathcal{F}_1$ の元のうち, 第二成分が最小のもの全体の集合を $\mathcal{F}_2$ とおく. これを帰納的に続けていくと, $\mathcal{F}_m $ は明らかにただ一つの元からなる集合となる. その元を $A$ とおく.

同様の手順によって $\mathcal{G}$ から得られた元を $B$ とおく. $(fg)(A+B) \neq 0$ であることを示す.

$I , J \in \mathbb{N}^m $ は $I+J=A+B$ であるとする. 例えば $I$ の第 $k$ 成分を $i_k$ のように小文字と添え字で表すことにする. いま等式の両辺の第一成分について $i_1 + j_1 = a_1 + b_1$ となっている.

  • $i_1 < a_1$ なら, $A$ の最小性より $f(I)=0$
  • $i_1 > a_1$ なら, $j_1 < b_1$ となり, $B$ の最小性より $g(J)=0$

ゆえに $i_1 = a_1 , j_1 =b_1$ のときの値だけを考えればよい. 以下, 同様の考察を第二成分以下についても続けていくと, 結局 $I=A , J=B$ のときだけの値を考えればいいことが分かる. すなわち,

$\displaystyle (fg)(A+B)=\sum_{I+J=A+B}f(I)g(j) = f(A)g(B)$

取り方から $f(A) \neq 0 , g(B) \neq 0$ で, 環 $R$ は整域であったので $(fg)(A+B)=f(A)g(B) \neq 0$

$|~A+B~|=|~A~|+|~B~|={\rm deg}(f)+{\rm deg}(g)$ だったので, ${\rm deg}(fg) \geqq {\rm deg}(f)+{\rm deg}(g)$ . 以上より等号が示された.

 

乗法の $\geqq$ を示すところで出てきた $A , B$ の構成法を使えば, 多項式同士の積の最高次項のうち, 打ち消されないで残る部分の一つを具体的に求められる(使い道があるかは分からないが). 例えば $x^2+xy$ と $y^2 -xy$ を掛けることを考えると, $x^2 \times y^2$ は $xy \times (-xy)$ によって打ち消されてしまう. ここで上の構成法を使えば, $A$ に対応する項は $xy$ , $B$ に対応する項は $y^2$ となり, これらの積 $xy^3$ は, $x^2+xy$ と $y^2 -xy$ の積において打ち消されないで残ることが分かる.

分数の性質メモ

分数どうしの掛け算, 割り算の法則を示そうと思います. ときどき大学数学の話が混ざっていますが大部分は一次方程式をいじっているだけです.

実数 $ a $ と実数 $ b≠0 $ に関して定まる分数 $ \frac{a}{b} $ とは一次方程式

$ a = bx $

の解と定めます(この定義が一般的であるのかは分かりませんが, 少なくとも問題はないと思います).

なお, この方程式の解が実数の範囲内で一意に存在することは,

・関数 $ f(x) = bx $ が実数全体で単調であること( $ b≠0 $ という仮定を使ってます).

・中間値の定理.

から導くことができます.

中間値の定理は実数の連続性を示すものなので, 実際は単調性・実数の連続性・実数の性質から導くことができると思われます.

【分数同士の掛け算】

 $ a, b, c, d $ は実数とし, $ b $ と $ d $ は $ 0 $ でないとします.

このとき分数 $ \frac{a}{b} $ および $ \frac{c}{d} $ はそれぞれ以下の方程式たち

$ a = bx $・・・(1)
$ c = dy $・・・(2)

の解 $ x, y $ と定めることにしていたのでした.

すなわち今の場合では $ x = \frac{a}{b}, y = \frac{c}{d} $ という状態です. 代入したわけではなくこのように定めたのです.

さて今考えたいのは分数同士の掛け算なので, $ xy $ という実数がどのような方程式を満たすのかを調べます. 

天下り的ですが次のような性質が満たされると分かります.

***************

$ (bd)(xy) = (bx)(dy) $ (実数の積に関する結合則と可換性)

この式の右辺に式(1)と(2)を代入

$ (bd)(xy)=ac $

***************

すなわち $ xy $ という実数は方程式

$(bd)z = ac$

の解 $ z $ の条件を満たしていると分かります.

ゆえに分数の定義から $ xy = \frac{ac}{bd} $, 

すなわち $ (\frac{a}{b})(\frac{c}{d}) = \frac{ac}{bd} $ が示されました.

【分数同士の割り算】

$ a, b, c, d $ は掛け算のときと同様に定め, $ x, y $ も同様に定めます.

つまり $ x = \frac{a}{b}, y = \frac{c}{d} $ です.

ここで示したいのは $ \frac{a}{b} ÷ \frac{c}{d} = \frac{ad}{bc} $ という式です.

すなわち $ \frac{x}{y} = \frac{ad}{bc} $ を示したいと言い換えられます.

そこで次の方程式を考えます.

$ yz = x $・・・(3)

$ x, y $ は一つの実数として定まっているので, これは $ z $ を変数とする方程式だと考えられます.

そして分数の定義より, $ z = \frac{x}{y} $ です. この $ z $ がどのような性質を満たしているかを調べます.

***************

$ (bd)(yz) = b(dy)z $

式(2)より $ dy = c $ を上の式の右辺に代入

$ (bd)(yz)=(bc)z $

式(3) より $ yz = x $ を上の式の左辺に代入

$ (bd)x=(bc)z $
$ d(bx) = (bc)z $ (左辺の順序交換)

式(1)より $ bx = a $ を上の式の左辺に代入

$ ad = (bc)z $

***************

よって $ z $ は方程式 $ ad = (bc)z $ を満たすので, 分数の定義より $ z = \frac{ad}{bc} $ となります.

すなわち $ \frac{a}{b} ÷ \frac{c}{d} = \frac{ad}{bc} $ が示されました.

 

以上により分数の掛け算・割り算の法則が(多分)示せたのではないでしょうか.

 

複素数の場合】

上の分数の定義には, 実数の全順序性がクリティカルに使われています. これは中間値の定理や関数の単調性などに含まれており, これがあるおかげでwell-definedとなっています.

しかし複素数体実数体と違って全順序体ではないので, これでは分数の法則を実数の場合でしか示していないことになります. そこで複素数の場合も示します.

 $ a = bz $ なる複素係数方程式の解の存在性は全順序性を使わなくても示せます. 「代数学の基本定理」によります.

 

代数学の基本定理 - Wikipediaによれば

―『次数が 1 以上の任意の複素係数一変数多項式には複素根が存在する』―

とのことです.

つまりいま $ f(z)=bz-a $ なる複素係数一変数多項式を考えれば, これの解の存在性が言えます.

 

一意性に関しては仮に二つの異なる複素数 z, z' が共に解になると仮定すれば

$ bz-a = 0 $

$ bz'-a = 0 $

辺々を引いて

$ b(z-z') = 0 $

左辺において仮定より $ b ≠ 0, z-z' ≠ 0 $ なので $ b(z-z') ≠ 0 $

よって矛盾.

背理法より一意性が示されました.

(このようにしなくても, $ bz-a $ の次数が1だから高々1つしか根を持たないと言えば十分です)

 

以上により複素数の場合も一次方程式の一意な解として分数が定義できることになります.

それ以外の部分では全順序性を使ってはいないので, 実数の場合の議論をそのまま複素数にも適用できます.

 

以上メモ終わり