mathdiaryのブログ

数学についての覚え書きを雑多にしていきます.

点P

内積のもつ意味についての解説ノート

高校数学で学ぶ内積がどのような意味を持つのかを解説します。

内積とは大雑把にいえば、二つのベクトルに対して決まる数(スカラー量という)です。ベクトルが2次元でも3次元でも内積は考えることができます。どちらのベクトルでも理屈は同じなので、この記事では2次元のベクトルで説明します。

二つのベクトル $v_1=(x_1, y_1)$、$v_2=(x_2, y_2)$ に対する内積を $v_1 \cdot v_2$ と書くことにします。内積の定義は

$v_1 \cdot v_2 = x_1x_2+y_1y_2$ ―(1)

です。つまり、$x$ 成分同士、$y$ 成分同士を掛けたものを足し合わせています。なお、定義とはいわば数学のルール決めのようなものなので、いきなり定義の意味を理解しようとする必要はないです。

さて、何か具体的にベクトルが与えられた際に、上の定義にしたがって内積を計算することは難しくありませんが、これが一体何の役に立つのでしょうか。実は昔の偉い人が、以下の等式が”幸運にも”成り立つことを発見してくれています。

$v_1 \cdot v_2 = |v_1| |v_2| \cos\theta$ ―(2)

ここで $|v|$ はベクトル $v$ の長さ(ノルム)を、$\theta$ は二つのベクトル $v_1, v_2$ の成す角度を表しています。もしかしたら(2)式を内積の定義だと思っている人もいるかもしれませんが、記事冒頭の(1)式を定義とすることのほうが一般的です。ノルムとかコサインが含まれる(2)式よりも、足し算と掛け算しかない(1)式のほうが余計な説明が要らず簡単ですし、高校数学以降で内積の概念をさらに拡張させる際にも(1)式のほうが好都合だからです。さて、この等式が成り立つおかげで内積が意味のあるものになっているのですが、すぐにはよく分からないですね。以下でその部分を述べます。

(2)式の右辺には二つの概念が含まれています。それは「ベクトルの長さ」と「ベクトルの成す角度」です。ふわっとした問いになりますが、どちらのほうが”求めにくい”でしょうか。

ベクトル $v_1$ の長さは、三平方の定理より $|v_1|=\sqrt{x_1^2+y_1^2}$ と計算できますので求めるのは簡単といえます。一方で角度はどうでしょう。例えば $(1, 2), (3, 4)$ と二つのベクトルが与えられても、それらの成す角度はすぐには求まりません。角度は図形的(幾何学的)な情報なので、ベクトルが成分表示(=数字の羅列)で与えられただけではイメージするのが困難なのです。

ではここで(1)式と(2)式を連立させてみましょう。すると、内積を介することで以下の等式が導かれます。

$ x_1x_2 + y_1y_2 = |v_1| |v_2| \cos\theta$ ―(3)

両辺を見比べると、左辺は足し算と掛け算しかないので容易に計算できる一方、右辺には角度という、今述べたように”求めにくい”ものが含まれています。これこそが②式の意義といえます。すなわち、計算しにくいものが含まれた式を、計算しやすい式(=内積の定義式)で表現しなおすことができるというのを(2)式は主張しているのです。左辺、右辺の特徴を表にすると以下のようになります。

  $x_1x_2+y_1y_2$ $|v_1| |v_2| \cos\theta$
計算の簡単さ 簡単に計算できる 角度は一般に計算しにくい
直感的か 直感的には分かりにくい ベクトルの長さ、角度は直感的には分かりやすい

この表から分かるように、(3)式の両辺は、互いに互いの欠点を補いあっているとも見ることができます。このような観点から、内積の意義の一端が見えてきます。

 

以上、内積についての簡単なノートでした。

線形代数(自分用まとめ)

線形代数の雰囲気

線形代数はもともと連立1次方程式を解くなかで生まれてきたものである。とはいえ連立1次方程式を解くという意味ではクラメルの公式やガウスの消去法で決着がついており、そこから先は線形性そのものが興味の対象になっている。この記事では線形写像を考えるモチベーションのようなものを初学者に教えるとしたらどうするかのメモ。

 

関数 $f(x)$ があったとき、引数部分に何かしらの操作を加えたら $f$ の値にどのような影響が出るか考えることはよくある。例えば「今より100万円収入が増えたら幸福度はどうなるか」などは日常レベルでも考えうる。収入に幸福度を対応させる関数があるとすれば、これは収入部分に操作を加えることで幸福度がどう変わるかを考えていると言える。細かいことは考えず引数への操作をとりあえず $g$ と書けば、上の議論は

$ f(g(x))=G(f(x))$

を満たす関数 $G$ を特定する、あるいは特定まではいかずとも何らかの性質を調べるということに相当する。

$g$ として最も簡単な操作は、幸福度の例でも挙げたように足し算であろう。すなわち $f(x+y)$ がどうなるかを見たい。実際、$f(x)=\sin x$ の場合では、角度部分の足し算を考えることは実用性があった。というのも

$\sin75^\circ=\sin30^\circ \cos45^\circ + \cos30^\circ\sin45^\circ$

と分解することで、直接求めるのがやや困難な角度での三角比を求められた。ガンマ関数の例も見てみよう。ベータ関数とガンマ関数の関係でよく知られた式として

$\displaystyle B(x, y)=\frac{\Gamma(x)\Gamma(y)}{\Gamma(x+y)}$

がある。これを変形するとと

$\displaystyle \Gamma(x+y)=\frac{\Gamma(x)\Gamma(y)}{B(x, y)} $

となる。

また $f(x)=x^2$ では $f(x+y)=x^2+2xy+y^2=f(x)+f(y)+2xy$ と書ける。

ほんの一部の例だが、引数の足し算は様々な形で関数の値に影響を及ぼす。では最も簡単なのはどのような場合だろうかと考えたときに思いつくひとつに $f(x+y)=f(x)+f(y)$ 、すなわち線形性(の一部)がある。もちろん $f(x+y)=\rm{const.}$ のほうが簡単だが、単純すぎて調べるところがない。

 

さらに実際の線形写像には足し算に加えて $f(ax)=af(x)$ という、定数倍についての条件も加わる。まとめると、

定義(雰囲気だけ) 写像 $f$ が線形写像であるとは,
  1. すべての $x, y$ について $f(x+y)=f(x)+f(y)$,
  2. すべての定数 $a$, すべての $x$ について $f(ax)=af(x)$,
が成り立つことをいう.

実数 $\mathbb{R}$ 上の線形写像(=線形関数)は、ある定数 $r$ によって $f(x)=rx$ と表せる。なぜなら $r:=f(1)$ とすれば定義の2より $f(x)=f(x\cdot 1)=xf(1)=rx$ となるからである。このグラフの形が直線であることが、線形性の名前の由来でもある。

ところで、線形写像の定義はなぜ足し算と定数倍の2つがセットなのか。1だけでも十分そうではある。ところが実際は、$\mathbb{R}$ 上の関数で定義の1を満たすものであっても $f(x)=ax$ となるとは限らない。証明は こちらの記事に詳しい(やや面倒なので事実だけ認めて気にしなくてもよい)。

次に定義の2はどうか。実数上の関数の場合は、2を認めれば自動的に1も認めることになってしまう。にもかかわらず1, 2があるのはなぜかというと、今後は実数上だけでなくあらゆる空間での写像を考えることになり、そうなってくると足し算と定数倍の意味が異なってくるためだ。今は実数で考えているから足し算⇒定数倍と翻訳できるが、それができなくなってくる。

今回はここまで

知恵袋で見かけたもの(2)

位相空間の話。 「2つの位相空間X, Yが同相なとき、それぞれから1点を除くことでできる部分空間たちも同相であるか?」

同相という位相的な条件が、1点を除くという集合論的な操作で保たれるかという問題。しかし1点を除くと連結性とか開集合族の状態とか(要するに位相不変量が)色々変わるので成り立たなさそう。実際、以下の反例がある。

(1)連結成分の個数を変える場合: ほぼ等しいことを表す記号「≒」をR2の部分空間と見なし、XとYはどちらもこの位相空間とする。このときXからは「≒」のうちの「=」部分から適当に1点を取り、Yからは「≒」の上のほうにある点を取るようにすると、これらは連結成分の個数が等しくならないので明らかに同相でない。

(2)穴の数を変える: X, Yを共にR2上の閉円盤とする。Xでは中心から1点をとり、Yでは縁から1点をとると、穴の数が変わるので同相にならない。