mathdiaryのブログ

数学についての覚え書きを雑多にしていきます.

点P

整数環 $\mathbb{Z}$ において乗法に関する $2$ の逆元がないことのメモ

整数環 $\mathbb{Z}$ において, 乗法に関する $2$ の逆元がないことのメモ.

実数体 $\mathbb{R}$ において $2$ の逆元 $\frac{1}{2}$ が存在し, これが整数でないので示された」として良さそうだが, 整数に関する定理は整数の性質だけを使って示すほうがよさそう.

【証明1】

ある整数 $n$ が $2n=1$ を満たすとする. 一般に順序と演算の整合性から $1>0$ は導かれるので, 仮定と合わせて $2n=1>0$ を得る. つまり $n+n>0$ である. もしも $n \leqq 0$ ならば $n+n \leqq 0$ より矛盾なので, 背理法により $n>0$ (不等式の両辺を2で割ったわけではない). 一方,

$2(n-1)=2n-2=1-2=-1 < 0$

だから上と同様にして $n-1<0$ . つまり $n<1$ (両辺に $1$ を足した). これらより $0<n<1$ . これを満たす整数は存在しない.

このことを再び背理法で示す. もしこのような整数 $n$ があったとすると, 正の整数であることより特に自然数である. また $n<1$ であることより $n=1×n>n×n=n^2$ . これを帰納的に続けていけば

$n>n^2>n^3> \cdots$

と続いていく. ところが任意の自然数は $0$ に対して有限回後続数をとったものなので, $n$ から無限に降下していくのはおかしい(有限回という概念は自然数が無い状態でも考えられるものであろうか). よって矛盾.

【証明2】

任意の整数 $ n $ と $ m $ について, ある整数 $ q $ と正の整数 $r$ で $|m|>r>=0$ を満たすものが一意的に存在して $n=qm+r$ となることを使う.

$2n=2×n+0, ~~ 1=2×0+1$

と表すことができるが, 余りの部分が一致していない. よって余りの一意性より矛盾.

【証明3】

$2n=1$ とする. $n$ は整数であるが, 特に $n>0$ の時は自然数に一致することは認めるものとする(整数の定義が曖昧なので今は認めるものとします. あとで追記するかも). 証明1と同様にして $n>0$ が出る. よって $n$ は $0$ でない自然数なので, ある自然数 $ m $ の後続数である.

自然数のサクセッサー関数を ${\rm Suc}$ とおく. $n={\rm Suc}(m)$である. ${\rm Suc}$ の性質から

$1={\rm Suc}(0), ~~ 2n=n+n={\rm Suc}(n+m)$

${\rm Suc}$ の単射性から $ 0=n+m $ . 再び ${\rm Suc}$ を使って $ n+m={\rm Suc}(m+m) $ . つまり $ 0={\rm Suc}(m+m) $ . いま $ m $ は自然数なので $ m+m $ も自然数. したがって $ 0 $ はある自然数の後続数になる. しかしこれは自然数の定義に反する. よって矛盾.

【まとめ】

自然数や整数や足し算の定義が曖昧なのでところどころ曖昧なままの証明になってしまった. ここらへんを勉強しなければならない. ただ個人的に1と3はかなり公理に近いところだけを使ってできたのではないかなぁと思っている. 特に3は数の大小関係をほぼ使わないで示しているように見えるのでもうすこし考察したい.

順序について

$X$ を集合とする. $X$ 上の二項関係とは次の写像である.

$ \rho : X \times X \rightarrow \{ T, F \} $

ここで集合 $ \{ T, F \} $ は真理値の集合を表す. $T$ が True, $F$ が False のつもりである. $ \{ 1, 0 \} $ で代用しても問題ない.

このような写像を定める代わりに, 直積集合 $X \times X$ の部分集合 $ R $ を定めてもよい. この場合, $X \times X$ における $ R $ の特性関数が上記の $ \rho $ に対応する. 以下では二項関係とは $ R $ のように, 直積集合の部分集合として定めることにする.

集合 $ X $ 上の半順序関係とは $X \times X$ の部分集合 $ R $ で以下の条件を満たすもののことである.

  • $\forall x \in X, (x, x) \in R$
  • $\forall x, y \in X ~ \{ (x, y), (y, x) \in R \Rightarrow x=y \}$
  • $\forall x, y, z \in X ~ \{ (x, y), (y, z) \in R \Rightarrow (x, z) \in R \}$

通例, 半順序関係 $ R $ において $(x, y) \in R $ であることを $x \leqq y$ と書く. 半順序集合 $ X $ を $(X, \leqq)$ と書く.

例えば $X = \{ 1, 2 \}$ に対して $ R = \{ (1, 1), (2, 2) \} $ と定めると, これは $X$ 上の半順序関係となる. このとき $1 \leqq 2$ も $ 2 \leqq 1 $ も成立しないことに注意. 半順序関係ではこのように比較不可能な二元が存在しうる.

半順序集合 $(X, \leqq)$ で, 比較不可能な元たちが存在しないもの, すなわち

$\forall x, y \in X$ について $x \leqq y$ または $y \leqq x$

が満たされるようなものを特に全順序集合と呼ぶ.

空集合 $\emptyset$ 上にはただ一つの半順序 $R=\emptyset \subset \emptyset \times \emptyset$ が存在し, これによって $\emptyset$ は全順序集合となる. というのも, 半順序の定義は全称量化子 $\forall$ を用いて定められており, これは空集合上では常に真となるからである.

ちなみにこれを写像で表すと

$\rho : \emptyset \rightarrow \{ T, F \}$

という空写像に対応することになる. 終域 $ \{ T, F \} $ は一定なので, 空集合上の半順序はただ一つであることに矛盾しない.

半順序集合 $(X, \leqq)$ の部分集合 $A$ の上界とは $x \in X$ で

$\forall y \in A, y \leqq x$

を満たすもののことである. $x \in A$ である必要はない.

半順序集合 $(X, \leqq)$ であって, その任意の全順序な部分集合が上界を持つようなものを帰納的という.

$(X, \leqq)$ を帰納的な半順序集合とする. 先に述べたように空集合 $\emptyset$ は $X$ の全順序部分集合となる. すると帰納的であることの定義から $\emptyset$ の上界が存在しないといけない. したがって $X \neq \emptyset$ であることが導かれる.

Zorn補題は「帰納的半順序集合は極大元をもつ」と存在性を主張しているが, 帰納的という仮定がある時点で空集合ではないので問題ない.

$\epsilon - N$ 論法

$(x_n)_{n \in \mathbb{N}}$ を数列とする. この数列が $a$ に収束"しない"というのはどういう場合であろうか. 以下のような場合については収束しないといっても問題ないであろう.

  1. ずっと $a$ に近づかない場合. 例えば $a$ の周り1cmには近づかない場合など.
  2. $a$ に近づいたり離れたりする場合. 例えば $a$ の周り1cmの範囲をいつまでたっても出たり入ったりを繰り返している場合など.

2.のような列の場合, 列の一部だけを見ると $a$ に収束しているということがありうる. 例えば偶数番目では $\frac 1 n$, 奇数番目では $1$ を取るような数列では, 偶数番目だけを見れば $0$ へと収束していく. ところが奇数番目は $0$ から離れているので, "列としては" $0$ には収束していない.

いま収束しないものとして二つの場合を考えたが, 実はこれらはどちらも同じ言い方で表現することができる. すなわち「ある距離 $\epsilon$ をとると, どんなに大きい番号 $N$ が与えられても, その番号より大きいある番号 $n$ をとれば $x_n$ と $a$ の距離が $\epsilon$ 以上になってしまう」と表現できる. つまりどこまでいっても $a$ に近づいてくれないメンバーがいるということである.

この表現を論理式で表そう.

  • 「ある距離 $\epsilon$ をとると」は「 $\exists \epsilon > 0$ 」と書ける.
  • 「どんなに大きい番号 $N$ が与えられても」は「 $\forall N \in \mathbb{N}$ 」と書ける.
  • 「その番号より大きいある番号 $n$ をとれば」は「 $\exists n \geq N$ 」と書ける.
  • 「$x_n$ と $a$ の距離が $\epsilon$ 以上になってしまう」は「 $|x_n - a| \geq \epsilon$ 」と書くことができる.

以上を合わせることで収束しないことを表す論理式は

$ \exists \epsilon > 0, \forall N \in \mathbb{N}, \exists n \geq N ~~{\rm s.t.}~~ |x_n - a| \geq \epsilon $

となることが分かる. ここで s.t. は such that の略であり, $\exists$ とセットで使うおまけみたいなものなので気にしなくてもよい.

この論理式の否定は

$ \forall \epsilon > 0, \exists N \in \mathbb{N}, \forall n \geq N ~~{\rm s.t.}~~ |x_n - a| < \epsilon $

であり, これが収束することの定義になっている.